『FIRE』という言葉をご存知でしょうか。
Financial Independence, Retire Earlyの頭文字を取った、経済的自立と早期リタイアの実現を意味します。あくせく働かずに楽して生きていきたい、と一度は夢見たことがある方も多いのではないでしょうか。働いて会社からお給料をもらうのではなく不労所得分だけで余裕のある生活を送りながら、毎日好きな事をやって生きていく、一見理想の生き方のように思えますが、それが現実となった時、人はどのような気持ちになるのか、想像してみてください。
年齢に関わらず、働かずに好きな事をしながら生活をしているという方からご相談をいただくことがあります。何を悩む事があるのかと思われるかもしれませんが、どのような方にも悩みは必ず訪れます。人は悩みの解決に取り組むことで前進し、それを繰り返しながら成長していくことが生きるということです。ですから「頑張ってあそこまで行ったら悩みや苦しみから解放される」という妄想は、実は誤解です。目の前の問題を乗り越えれば今ある苦しみは終わるかもしれませんが、頑張ってステップアップしたら、新たなステージで次の課題がやってくるため、悩みが尽きることはありません。つまり、悩みとは目の前にぶら下げられた人参のようなものなのです。どんなに嫌がっても人参がなくなることはありませんから、どうせなら、「美味しそう、食べたい!」と思いながら追いかけた方が幸せですよね。
何にも縛られることなく自由に生きる方々がどのような事にお悩みかというと、生きる意味についてです。仕事の悩みもない、人間関係のしがらみもない、やらなければならない事もない。何でも好きな事ができるけれども、好きな事だけをやり続けるのは実はそんなに楽しくはないということが分かり、趣味にも飽きて、結局毎日何をしたらいいのか分からずただただ時間が過ぎるのを待つのが苦しい、生きる目的を見失った……生きる意味って何なんでしょう、となるわけです。生きる意味とは、正解を導き出すことではなく、追い求めること自体が“意味”なのではないでしょうか。
何もしなくていい、という状況が延々と続くことほど辛いものはありません。80余年という長く限られた時間をいかに有意義に過ごすか、その為に仕事や家庭生活など、人と関わりながら誰もが時間を構造化しながら過ごしています。人には知能があり、考えずにはいられない生き物ですから、やるべきことや考えるべきことがなくなると『なぜ生きるのか』『死とは』という究極の命題と向き合わざるを得なくなります。それだけを追求しながら楽しそうに生きておられる方を見たことがありますか?私は見たことがありません。なぜなら、それは不可能だからです。命題から目を逸らし心穏やかに生きるために、人は毎日働き、人と会話をし、あらゆる雑多なことを考えるのです。
経済的に余裕のあるインフルエンサーの皆さんが暇を持て余しているように見えるでしょうか。皆さんそれぞれに社会的役割や存在意義を理解し、ご自身にできる最大限のことに常に取り組んでおられるように見えます。社会貢献する意欲や覚悟がないまま『FIREすれば人生勝ち組』と考えているのであれば詰み確ですので、FIREは、あくまでもその先に行くための通過点として目標設定されることをオススメします。
カウンセラーの皆さん、生き急ぐクライエントさんが相談に来られた際、クライエントさんの勢いに合わせて同調することが共感だと思っているとしたら、それは間違いです。未来を見据えたより良い生き方ができるようアダルトを働かせながら寄り添い見守れるカウンセラーでありたいですよね。